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日本語の心臓   

2006年 03月 28日

2日前の日記の通り、先日東方SSこんぺの作品を書き上げたばかり。
そんな最近、文章を書く技術について考えることがある。



巷間には多く、文章が巧いと言われる人がいる。
誰もと同じ日本語を操るだけなのに、巧いと言われる彼らの文章はどこが違うのだろう。

例えば、面白い文とは何か。
ギャグに冴えがあればそれは面白い文章になるかと言えば、そうでもない。
例えば、説得力のある論文とは何か。
正しいことを正しいように連ねることだけでは、説得力には繋がらない。
例えば、感動させる詩や小説とは何か。
情景を比喩や叙述で描写するだけなら、誰にだって出来るはず。

世に名を冠たる詩人や小説家達は、さほど難しい言葉を使っている訳でもない。
比喩だって、こねくり回した暗喩ばかり書いている訳でもない。
むしろ誰にでも思いつく、素直な比喩を使っていることが多い。
では、何が文章を変えるのだろう?



読みづらい文章、読みやすい文章という定義がある。
読点が無いだとか語尾が揃ってしまってるとか、技術論ではいくらでも語ることが出来る所。
しかし、どう読点を打っても語尾を変えても、はたまた単語を替えても主語を違えても、
どう足掻いても良くならない文章がある。これは何故か。

文章には、脈動がある。とにかく何でも良い、何かしら単語を並べていれば、
単語の文字数や発音の抑揚がリズムやメロディを刻む。まるで歌のように。
では、昔の人にその「歌」とはなんぞやと尋ねたならば? 彼らはきっと五七五と答えるだろう。
古の風流人にとって、歌とはつまり文章の奏でる音楽だったのだ。

同じ単語同じ比喩を使っても、ほんの小さな助詞や語尾が変われば文が与える力は
簡単に変化する。文字数が一文字違えば、文章のリズムも大きく変わる。
五七五というリズムは、長い年月をかけて先達が考え出した、日本語最高峰の組み合わせ。
日本語の美しさの真髄は、この五七調のリズムにあると言っても過言ではないはずだ。

かといってもちろん、日常の文章を全て五七調に出来るはずもない。例えば仕事のレポートを
五七五七、五七七……などというリズムで書こうものなら、上司から脳天に拳骨を喰らうだろう。
当然ながら、五七調だけがリズムではない。先に書いたとおり文章を書いていけば、
そこには必ずテンポと抑揚が生まれる。それが、全て音楽になる。
文章が巧いとはどういうことか?それはつまり、この音楽が優れているということなのだ。

読みやすい文章は、波長の揃ったリズムを持っている。読んでいる脳に、無意識にテンポを
生み出してくれている……だから、読みやすい文になる。
読みにくい文章は、音楽が途中で三拍子になったり四拍子になったりしている。
だから読み手がすぐに疲れて、文のリズムから離れてしまう。



残念ながら、この日本語のリズムを聴く遊びは、既に廃れきった感覚になってしまった。
言うまでもなく、今や和歌を嗜む風流人はもう世に少ない。
街を見れば、キャッチコピーは一言でのインパクトを求められ、新聞記事は文法と
語意の正しさだけを求められている。
テレビ番組は、シタツヅミとシタヅツミの間違いは教えてくれる。でも、言葉の鼓動は……
もはやほとんど、誰も教えてはくれない。



書類に慣れたサラリーマン、記事を書き続けた新聞記者でも、リズムに耳を傾けなければ
それは指揮者の居ない楽団と同じ。語彙だけが増えても、せいぜい表現力が広まるだけだ。
文章はいつまでも、読みやすくなりはしない。

このセンスは、天性の才能が大きくモノを言うことは否定出来ない。
だけど耳を澄ませば、誰にだって必ず聞こえてくる音である。

古に息づいた日本語の命を、私達は忘れかけている。
昨今の日本語クイズの番組も、単語の用法ばかりを指摘して、本当の日本語の良さは
何も教えてくれなくなっている。
昨今の若者の文章力の低下は、語意の誤解が主原因ではないはずだ。

単語の意味を考えずに適当に間違った日本語を使うことも、当然好ましいことではない。
だけど、言葉は時間と共に変化していくもの。意味が通じるならば、それは言葉として
立派に役に立っている。
読みにくい文章に欠けているのは、単語の使い方ではない。日本語のリズムだ。
読みにくい文になっては、本当に言葉としての、言語としての力を失ってしまう。



文章の心臓の音に、耳をすましてみよう。きっと、日本語を書くのがもっと楽しくなるはずだ。
私はもっともっと日本語の心臓を、感じてみようと思う。

誰も聞かなくなってしまった音楽にひっそりと耳を傾けながら、ブログにつれ東方SSにつれ、
徒然なるままに日々日本語を編み出している。
まだまだ私は未熟だけれど、とても面白くて、そして大切な「遊び」だと思っている。

by taoyao | 2006-03-28 00:00

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